「聴きたい音楽がなくなった」
と言うだけである。
「じゃあ、自分で作ろう」
と言うか。
それ以前に強迫神経症のリハビリとして今、思えばサウンド・アートと言うかドローンみたいなのは作っていた。
音が流れていれば多少は落ち着く、と言う事に気が付いて蛇口の水の音を90分テープに録音して、其れにエフェクトをかけたモノだった。
だが完全に『自分の為』だったから発表とか第三者に聴かせるとかはなかった。同じ手法で新宿の路上で録音した『白石民夫』のサックスに延々とディレイとリバーブ、其れとハウリング音を混ぜたモノを聴いていたり、
作曲ではなくて、自分の生活の為にだった。
そのうち、作るのが面倒臭くなりラジオになったが。
グルメ評論家が旨い店を探して、飽きたら自分で作ってしまうように・・・と言うのだろうか。
私はパイプ煙草が好きである。
思えば何本買ったんだろうか。現在、手元にあるのは10本程度だが紛失・破損も含めれば、もっとあった気もする。
一番、高かったのは17000円だからガチなコレクターには完璧に負ける。
単なる喫煙器具でしかないパイプだが5000円から10万円を超えるモノも多い。
名門『ダンヒル』なんて一本で中古自動車が買える程。
しかし、そう言うパイプを好んで買う奴が結構、多いのである。
し!か!し!
10万円のパイプを吸おうと、5000円とか中古で1000円のパイプだろうと『自分にしかわからない』のである。
大抵は「へー、パイプなんですね。良い香り~」で終る。
下手すると
「シャーロック・ホームズみたい」
「ポパイみたい」
「マッカーサーみたい」
である。実は内心、激憤と言うか骨の髄からムカつくのである。
「シャーロック・ホームズが吸っていたパイプは『キャラバッシュ・パイプ』って言うゴツイ奴で、俺のと同じにするな!」
(シャーロック・ホームズが吸っていた奴)
「ポパイが吸っていたパイプはコーンパイプであって、俺のはブライヤーだ!一緒にしてんじゃねー!」
(ポパイの奴。安いが不味い)
「マッカーサーが吸っていた奴はトウモロコシ一本分のゴツイ奴なんだよ!俺のはエレガントなんだよ!一緒にしてんじゃーねー!」
(デカイ。兎に角、デカイ)
と骨の髄液が逆流しそうな程、ムカつくのだが、其処は大人の趣味であるパイプなので
「・・・はっはっはは(涙)」
と受け流す。そもそも、これほど『自己満足』レベルが高い趣味は無い。
ホンッと自分にしか判らないし。
流石にパイプ・マニアともなれば
「お!ポルシェのパイプ!」
「ダンヒルかよ!」
「ツゲ・イースター!」
とか判るんだけども、こう言う輩は少ない。
煙草人口の99%はシガレットであり、残りの1%が『シガレット以外』である。其の中に
『水煙草』
『煙管』
『シガー』
『パイプ』
『手巻き煙草』
なのである。だからパイプ人口なんて0・0001パーセント位なんじゃないか?と思う。何しろ面倒臭いし、「ちょっと一服」と言うモノでもないし(煙管は一寸一服が出来る)。
中古と言うかガラクタ屋で一本1000円くらいで出ていたりするのだが、大抵は元の所有者が死亡している奴である。
70年代に流行ったらしいんだよな。パイプは。
で、「主人が好んでいたんだけども使い道が無い」と言う事でガラクタ屋とか、ヤフオクに出品される。
其れを私が買う。
「其れって怖くない?」
と言われたのだが大事に使うので亡き所有者も満足だろう。
で、だ。
「作ろう」
と思った。既製品を買うのも良いが、何だか既製品は高いし、納得が行くデザインが少ない。
「お!」
と思っても私の給与の半分が飛ぶ金額。買えるワケがない。
で、ある時から「所詮は喫煙器具なんだから値段が高い物は買わないようにしよう」と決めている。
因みに最近、メインで使っているのはNYで買った5000円弱のパイプ。
シャコムとかブッシュカンも美味しいのだが、こう言うモノって『旨いor不味い』じゃなくて、純粋な好みである。
楽器も同じで単に値段が高いとか、音が非常に良い、だけで選ばないように、好みの問題である。
因みにトランペットも中古で数万円のものを愛用しているが、他のTPに乗り換えようと言う気が無い。何度か買おうかと思ったのだが、どうしても自分のTPが世界で一番、良い音がしてならない、と言うか。
そんなワケで作ろうと。
パイプ自作キットってのが売っているんだが、自作キットは何だかなぁと思ったので行き成り、『原木』を買う。
此れを只管、ヤスリで削るのである。
因みにパイプの原木のブライヤーってのは木の『根っこ』である。だから糞みたいに固い。
もう、泣けるほど固い。
必死で削りまくる事、5時間!
此処まで来た。
5時間もやっていると手が痛くて仕方がない。軍手をしていなかった為、手は傷だらけになるし。
で、ノンビリとやろうと言う事で1週間かけて紙やすり等で磨く事、6日間!
此処まできた。
あの薄汚い原木が此処まで綺麗になるのか、と思うと感無量。このままでも良いのでは?と思ったが色は塗りたい。
そこでニスで着色。
予定ではもっと綺麗な『赤』になるはずだったのだが、どうも違う気がする。
調べてみると更に紙やすりの細かい奴で削り、下地を作り、ワックス掛けをするんだとか。ラッカーでも良いらしい。
「ちくしょー!」
と思いながらラッカーを買う。で、テカテカしたのだが、何となくTPの練習をしていたらテカテカ感がムカ付き始めて、再度、紙やすりでラッカーを全て落とした。
で、意味もなく周囲をライターで炙る。
で、吸ってみる・・・と言う以前に『ブレイクイン』と言う儀式があり内部に煙草のヤニと言うかタールをつける作業がある。
単純な話で吸う、と言うより只管、息を送り込んで『焦がす』と言うか。
しかし、デザインに失敗した。
本来は丸みを帯びたエロティシズムを感じるようなモノにするはずだったのだが、マヌケな形になってしまった。
思えば交際している恋人をイメージしてパイプって過去に一本だけあったが不味かったなぁ。値段は17000円と高額だったが、直ぐに壊れた。
其の恋人ともホンッと惰性で交際しながら3年で破局した(現在は私の1万倍の安定感のある男性と結婚中)。
しかし、デザイン失敗したなぁ・・・と思った。ついつい、やり過ぎた。
しかし、今日になって吸ってみると旨い。
「あれ?此れは旨いな」
と思った。煙草の旨みがダイレクトに来る。理由は幾つか考えられる。
①ボウルを大きくした事
②吸い口が大きい事
だろうか。あとは持ち難いな、と思っていたのだが使ってみると手に馴染む。
不思議だ。
しかし、一本目に失敗した!と言う脱力感があったので二本目の原木を買って来たのだが(原木だと安いんだよな)、此れはこれで一ヶ月くらいかけてやるか・・・と言う感じ。
大まかな形だけは作ったが。
ちょっと重たいのが気になる。しかし、これからドンドン削ってしまうので良いだろう。