2018年7月31日火曜日

Queen Brass "ZORRO" ModelⅡ

ついに新しいトランペットを買った。







「ついに買ってしまったか・・・」

と未だに緊張している。新しい楽器を買う、と言うことは未来への投資であり、個人的な革命である。
現状の楽器に不満があるからこそ、新しい楽器を買うわけだし。

エレキ・ギター奏者は違うギターを何本も揃えるが私は一個で十分である。トランペットと言う楽器は

『マウスピースで7~8割』

『本体が2~3割』

と言う塩梅で音色が決まる。マイルス・デイビスの音はダークだが、マーチンと言う現状では数十万円以上の楽器だから、あの音になったのではなくマウスピースに依る処が大きい。

ウィントン・マリサリスの音は時期によって違うが、デビューはBach。次はシルキーだったかな。
Bachでデビューして、シルキーを使う、と言うことはミュート・ビートの『こだま和文』も同じである。
だが、二人とも音は違う。
使っているマウスピースの関係だと思う。
あと、ミュート・ビートの『こだま和文』はミュート・ビート時代は思いの外、音色もテクニックも良くない。
っつーか、全般的に良くないのだが、80年代の金管楽器はああ言う『力一杯に吹く』と言うのがスタンダードだったんだと思う。
まぁ、トランペット演奏のスタンダードは全身全霊で吹くのがデフォだが。





新しいトランペットを買おう、と思ったのは実は下らない理由である。


BESSONと言うフランスのトランペットを使っていたのだが、買った2週間後に落下で凹んで修理。
数カ月後にも何かトラブルがあり修理。
ライブハウスで演奏して機材置き場に置いていたら対バンの誰か知らないがエフェクターケースを上に積まれて凹んで修理。


値段は中古なので高くはなかったが買った途端に『ケチ』がつき始めて「うーむ」と思った。

あと、BESSONは音は良いが見た目がスマートではない。其れまで使っていたYAMAHAは見た目がスマートだった。

『年上の女』

と言う感じで、吹きこなせないのは俺のテクニック不足であって楽器の問題ではない、と言う感じがした。
実際には楽器の問題だったのだが(YAMAHAのTPは思えば非常に癖が強い。演奏方法を間違えなければ素晴らしい音だが)。YAMAHAしか知らないので13年間、金管楽器の店ですら「これほど使い込まれた、このモデルを見るのは初めてです・・・!」と無意味なビンテージになるほど頑張ったもんなぁ。
でも、YAMAHA YTR-3325sは銘器だと思う。




BESSONは『兄弟分』と言うか、買ってから直ぐに減価償却が出来たし、少なくとも楽器のポテンシャルを100%は引き出せた。

100%を引き出せたのであれば、「其れが限界」と言うか。あと、『ケチがついた』と言う処である。
私の感情なんざぁ、その程度である。



で、欲しかった『Queen Brass』を買いに行った。



人気商品って事もあるし、メーカーが別の路線を展開したいみたいで、何故か『ヒノテル・モデル』を売っている。
私が欲しかったのは『Queen Brass C-line』と言うモノ。此れの入荷の為に1ヶ月待った。


購入先はジョイブラスと言う蒲田(ゴジラに破壊された街)にある金管楽器専門店である。
大久保の『大久保管楽器』でも良かったのだが、実は『ジョイブラス』は私の金管楽器生活の決定打を売ってくれた店である。

当時、所有していたTPが『YAMAHA YTR-3325s』と言うスチューデント・モデルだったのだが、大抵の店で所有楽器を言うと

「YAMAHAかよwww」

と言う塩対応だった。何故、YAMAHAが露骨に嫌われなきゃならんのか理由は分からないが(日本人の舶来信仰らしが)、ジョイブラスだけは嫌悪感なんてなかった。

当時は中野富士見町に店があり、まだTPを始めたばかりでマウスピースはBach7Cと言う標準的なモノを使っていたので高音が出ない。

実際にはハイトーンを操れるのは数年では無理なんだけど(其れにハイトーンは余り役に立つ音域でもない)

「高い音が出したいんです」

と言う超初心者が言う事を言うと、店長と言うか社長(とても紳士的な人だった)が「ふむふむ」」と言って、何本かマウスピースを出してきた。

その一本がアイルリッヒと言う千葉県の個人メーカーのモノで、予算を遥かに超える金額だったが、そのマウスピースであらゆる事が可能になった。

あの時、あの日にアイルリッヒと言うメーカーのマウスピースをGETしなかったら私は楽器を止めていたかも知れない。
何しろトランペットなんて『労多く、実少ない』と言う楽器である。

あらゆる楽器の中で、此れほど『ハイ・リスク/リーリターン』な楽器はトランペットだけなんじゃないか?と思う。


その頃は『舶来楽器シアズ』と言う店で、家が近所だったのでオイルを買いに行ったりしていた。だが、店が蒲田に移転してから行ってなかった。


京急線なんて空港に行く時にしか行かないし、殆ど川崎市だし。


舶来楽器シアズの頃は金管楽器でオイルだとか、品揃えは凄かったし、舶来楽器シアズじゃないと買えないモノ(オイルなど)もあったのだが。

舶来楽器シアズが移転してから『スウィング・ガールズ』がヒットし、『響け!ユーフォニアム』もヒットし、管楽器人口が棚から牡丹餅的に増えたので『管楽器』と言うモノの取り扱いが島村楽器でも多くなった事もあるけども。



でも、其れは2004年より前の話しである。


その間にYMAHAのトランペットは13年間の酷使のためメーカーですら修理が出来ないほどになり(デンマークの店に見せたらビンテージ楽器と間違えられた)、マウスピースを紛失したので新調。
BESSONを買って、ケチがついて。


あと、Queen Brassはコスト・パフォーマンスが凄いんだけど、俺にとっては高額な買い物なんだよな。
正規雇用労働者でもないし、GNPも低いし。
あと、やっぱり10万円と言う金額は大きい。


で、1年ほど貯金して漸く購入。

あと、買おうと思ったのは「そろそろトランペッターとして自覚を持つべきでは?」と思ったのも大きいかも。

エフェクトを多用するから「楽器なんざぁ鳴れば良いんだよ」と思っていたのだが、流石に本体の音色や色々な事が気になり始めた。
以前はエフェクターを多用するから気にならなかった。正直、コルネットとかC管TPでもボロでも良かったし、YAMAHAを13年も愛用していたのは、愛着の問題であって、ピッチとか気にしていなかった。

で、10万近い楽器を買う、と言うのは

『トランペット奏者』

として、ちゃんとしなきゃなぁ、って言う。



で、お金が溜まったのでジョイブラスに電話して入荷を待つこと一ヶ月。


漸く入荷されたので店に行く。



で、嘗てと同じように紳士的と言うかジェントルな社長が作った店、と言うか緊張感はあるけどもOPENな店である。

電話していたので直ぐに試奏。


『Queen Bras/C-line』に飛びついて吹いてみる。


と!こ!ろ!が!


この『C-line』はハイトーンは爆発的と言うか、そのハイトーンの爆発的な流出量は福島第一原子力発電所の放射能だとか中国天津市大爆発事故のように出る。

(Queen Bras C-lineによって大量に放出されるハイトーン)



だが、コントロールが難しい・・・と言うか『暴れる馬』と言う異名がある程なので、どんなものか?と思っていたら本当に暴れ馬。
まぁ、其れは頑張ってコントロールすれば良い。

だが、音色が『明るい』のである。ホンっと明るい。軽い、と言うか。軽い音も良いのだけど(改造する事で改善は出来るし)何だかなぁ・・・と思って、C-lineの元のモデルである『Queen brass Zorro』と言う素っ気無いモデル名のモノを試したら、此れが思いの外、素晴らしい。

コントロールも抜群だし、音も落ち着いている(音色なんざぁ聴いてる人には分からないんだけど)。

其れに、ルックスが良い。C-lineもルックスは良いのだが(って言うか2つの違いは微差である)、手に持った時にフィットする。
吸い付いてくるようなフィット感。

試奏していると、此方のイマジネーションをガンガン、引っ張りだしてくる。

「え?俺ってこんなに吹きまくれる奴だったの?」

と思うほど、馬鹿みたいにフレーズや新しい音色が飛び出てくる。唇がバテようが、夏で身体が疲れていようと、全く関係なしに大量のフレーズ、旋律、リフ、音色が食中毒の際のゲロとか、下痢とか、頸動脈を切断したときの血飛沫とか、別れ際の恋人同士の罵倒ように出てくる。

ピストンもまるで羽のよう。



愕然とした。



C-lineを買おうと思い貯金していたのに、違う楽器が良くなった・・・と言うのは何と言うか、

『恋人がいるのに、好きな人が出来てしまった』

『妻がいるのに、恋人が出来てしまった』

『定年間近だと言うのに、娘のような年齢の女性と恋に落ちた』

『厳格なクリスチャンとして修道院にいたのに、突然、聖書の矛盾点に気がついた』

『生まれも育ちもギャングと言うミュージシャンのファンだったのに、実は生まれも育ちも大金持ちと言う事を知った』

『処女だと思って、抱いてみたら結構なテクニシャンだった』

『子供だと思って喧嘩を売ったら、実は極真空手ジュニア部のTOPだった』

『デスメタルのCDを買ったら、アンビエントだった』

『オナニーは身体に悪い、と言う情報を知った』

『憧れのミュージシャンと共演してみたら、意外と下手だった』

『時計の針がおかしくて、3時間も時間を間違えた』

『終電間際に降りる駅を間違えた』

『忍者になりたかったのに、実は忍者は実在しなかった事を知った』

『長年、ジャイアント馬場のファンだったのに、実はジャイアント馬場は新日本プロレス時代には既に全盛期を過ぎており、結構、弱かった事を知った』

『空手バカ一代で極真空手に入ったが、大山倍達は石を割ってない事を知った』

『プロレスラー・スーパースター列伝の全てを信じていた』

『プロレスの技は実戦では全く使えない事を知った』

『全てはユダヤ資本家の陰謀であることを知った』

『全ては民主党の陰謀である事を知った』

『全ては在日朝鮮人のよる特権的な陰謀を知った』

『全てはフリーメイソンの陰謀である事を知った』

『戦艦大和が好きで、何台もプラモデルを作ったが、最近になって戦果が皆無だった事を知った』

『長年、熟女好きだったのに、気がついたらAKB48の握手会で勃起している』

『長年、AKB48のファンだったのに、気がついたら叶姉妹のファンになっていた』

『タイガーマスクの正体が佐山サトルであることに気がついた』

『遊びでSEXしてみたら、思いの外、相性が良い』

『結婚して家を買った途端に学生時代が懐かしくなる』

『同級生の頭が禿て来ているor白髪を発見する』

『猫だと思って飼っていたら、ピューマの子供だった』



とか、無意味な罪悪感が出てくる。


「でも!でも!でも・・!俺はC-lineを買う為に1年も貯金したんじゃないのか?!」

と悶々とする。


で、優柔不断なので、1時間くらい吹きまくって、やっぱり悶々としてしまい、埒があかないし、仕方がないので店員さんに聞いてもらって「どうでしょう?」とか、アホな事をして(ジョイブラスの女性店員さん、スミマセン)2時間も悩んで女性店員さんに「KO.DO.NAさんには、モデルⅡがあっているみたいですね」と言われて決断。
女性の意見は常に正しい事は歴史が証明している。嘘だと思ったら自分の母親や祖母の小言を思い出せば良い。男性たるモノ、女性の小言の『理路整然っぷり』『反論の余地なし』を痛感出来るはずだ。




で、ついに買ってしまった・・・と言う恐ろしさと恍惚で、暑さも気にならない。


帰宅して吹いてみる。

帰宅して眺めるが、金属加工と言うジャンルで「これ程、美しい造形があるか?!」と思う。そのままでは音が軽いし、抵抗感が少なすぎるので改造した。







トランペットを調教するのではない。私が調教されるんだろうな、と思った。

吹いてみると、やはり色々な音が出てくる。「嗚呼、此れは俺が出したかったフレーズだ・・・!」と思う。
まるで魔法のような楽器だ。





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