2012年10月7日日曜日

土佐日誌五

①滞在中に町内役場にて『婚活イベント』が開かれた。そもそも人口の50%が50代以上が占める町で『婚活イベント』が成立するのか?と思ったのだが何とか成立したらしい。しかし主催者と言うかスタッフである夫氏に「どんな婚活なんですかね?」と聴いても「わかんない」と言う。 

翌日 

夫さんが帰宅して「どんなんでしたか?」と聞くとデジカメの写真を見せてくれる。ディスプレイにはが写っている。普通、『婚活』ってラウンジとか食事だと思っていたのだが何故か『畑』。 

「これは?」 

「婚活に来たデブ」 

「いや、体型じゃなくてですけども」 

「ああ、これね。キュウリの収穫をしながら婚活なんだよ」 

「え?それって婚活になるんですか?」 

「町役場としては、そう思っているみたい」 

「婚活がキュウリの収穫・・・其れって婚活じゃなくて『農作業』になりません?」 

「いや、まぁ、だから収穫するじゃない?で、受け手がキュウリを籠に入れるわけ。其れで何とかコミュニケーションって言うか・・・」 

「成立するんですかね・・・」 

「うーん・・・」 

「之が切欠でメルアドの交換とか結婚に結びつく人が何人いるのか」 

「多分、格安でラフティングが出来るって言う部分で来ている人が大半だと思うんだよね」 
(ラフティング=激流下り→大豊町の吉野川は国内最大の難所らしく、吉野川を下れたら後は海外に行くしかない、って言うほどハードらしい) 

其処へ妻 

「いや、でも、凄くない?私も『どーやってやるんだ?そんな会場とかあったっけ?』って思ってたんだよね。でも、無理矢理とは言え町内でやったんだから『ある意味』、凄い!」 

「そうですね・・・。でも、婚活イベントが農作業って知らなかったんでしょうね。ディスプレイに写っている女性は。結構、綺麗なワンピース着てるし」 

「あ、この子は結構、可愛かったなぁ。人気あったみたい」 

「しかし、之で結婚に結びつくんですかね・・・」 

「うーん・・・」 


②大豊町大杉の風景 









③ 
高知県に着いて2日目に猫の散歩に付き合っていたら近隣の人に出会った。凄まじい高齢化社会なうえに過疎村なので人がいると「おお!人がいる!」と驚いてしまう。車はプリウス。運転しているのは74歳の老婆。 

「彼は東京から遊びに来た友人なんですよ。現代音楽をやっているんです」 

と紹介される。間違いなく老婆には『現代音楽』なんて言葉は通じてないと思う。下手すると 

『厳陀威恩駕苦』 

と思われている可能性も否めない。老婆はバリバリの土佐弁と言うか方言なので何を言っているのかサッパリ判らない。只、 

「回覧板を早く回せ」 

とは言っていた『らしい』。あと、私の事は『引っ越してきた』と思ったらしく「之からは、この町の若者を育てて下さい!」と6回位言っていたが、12日間滞在して所謂『若者』を見かけたのは数回しかない。皆、中学生~小学生だった。「若者を育てる、って言っても若者がいないじゃないか」と思った。 

その老婆は石材屋の『令嬢』らしく高齢化が進む町では『高嶺の花』として男性達の憧れの美女なんだとか。 

だが74歳なんである。 



因みに、その集落の『悪女』ってのが『きよ』と言う老婆で78歳なんだが 

「キヨさんねぇ。78歳なんだけどさ。80歳にしか見えないんだよ」 

「そうそう。腰が90度に曲がっているモンね」 

「そのキヨが集落では最大の『悪女』なのよ」 

「え?」 

「男達が皆、キヨの家から朝帰りって言うのがこの集落のパターンでさ」 

「ええ?!」 

「皆、手には生卵と御飯を持ってキヨの家に行くのね」 

「何で卵と御飯なんですか?」 

「ほら、山岳地帯だからカロリー物の入手が楽じゃないのよ。だから卵と御飯が凄く価値があるわけ」 

「・・・はぁ」 

「で、キヨの悪女っぷりがねぇ~。キヨとヤッちゃった人はキヨの畑で働かされたりするんだわ。草むしりとか」 

「やっぱ、一発やらせて貰った男の悲しさなんですかね」 

「で、キヨを廻って男達が喧嘩するわけ」 

「80歳にしか見えない直角老婆を廻ってですか?」 

「キヨは悪女だよ~」 

「・・・」 


因みに私を呼んでくれた夫妻は桁外れの『若年層』の部類に入る。多分、近隣の人々のフォルダには『小学生』『中学生』『新生児』等と同じフォルダに入っているんだろう。 


④ 
石材屋の令嬢が回覧板を早く回せ、と言っていたらしい。この集落には一応、ADSLが開通しているが(町役場が近いから。他の地区はFOMAかダイヤルアップ)、恐らく近隣住民で『パーソナル・コンピュータ』を3台も所有しているのは、この家だけだと思われる。近隣住民は皆、夜8時には寝てしまうので、夫妻の家は『不夜城』と思われているんだとか。 

「回覧板、回覧板って五月蝿いんだよね」 

「多分、この集落にとってのインターネットが『回覧板』なんでしょうね」 

「そうなんだろうけどね。内容も『お祭りが今年は大赤字だったが来年はどうするか?』とか、結構、どうでも良い話ばかりでさ」 

「でも、皆にとっては大事なんでしょうね・・・」 

「回覧板を回すって言っても家と家が凄く離れてんじゃん。疲れるんだよね」 

「確かに」 

「班長だからなぁ・・・」 


夫さんは引っ越して1年足らずで6軒の家の班長となったらしい。矢張り『班長命令』みたいなのがあるんだろうか。聞くと、そう言う権限はないらしく主な仕事は『回覧板を廻す』だけらしい。 

しかし仕事でグッタリなので面倒臭いんだとか。 

石材屋の令嬢(74歳)が「回覧板を廻せ」と言うのに対して妻さんは 

「あの、私、先日、福島県へ行きましてね!(大声じゃないと耳が遠いので老婆には聴こえない)放射能を浴びちゃったんですよ!其れで直ぐに疲れちゃうんですよ!だから中々、遅れちゃうんですけどもね!放射能で!」 

「あら!まぁ!」 

『放射能を浴びた』と言う凄まじい理由をでっち上げる(実際に福島にボランティアに行ってはいるが)のはさて置き、74歳の『回覧板』でしか世界を知らない老婆に『放射能』と言う物質が何なのか判っているんだろうか・・・と思った。

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